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東京地方裁判所 昭和50年(刑わ)2590号 判決 1975年12月26日

主文

被告人小池隆一を懲役一年六月に、同西方勝也を懲役八月にそれぞれ処する。

被告人小池隆一に対し、未決勾留日数中五〇日をその刑に算入する。

この裁判確定の日から、被告人小池隆一に対し三年間、同西方勝也に対し二年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人小池隆一の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人小池隆一は、新潟県の高校を三年で中退し、昭和四五年ころ上京していわゆる総会屋となり、「小池経済研究所」の名称を掲げ、週刊「訴える」と題する刊行物を発行し、自己が端株を有する東京都内の約五〇〇ないし六〇〇社から賛助金等の名下に金員の提供を受けるなど総会屋として活動していたものであつて、理研ビニル工業株式会社(本店の所在地東京都中央区日本橋本町四丁目一四番地、以下理研ビニル工業と略称する)の株式一株を有していたもの、被告人西方勝也は、東京都内の高校を卒業し、同四九年一月ころ、中学の先輩であつた右被告人小池輩下の総会屋となり、以後右被告人小池の下で総会屋として活動していたものであつて、右理研ビニル工業の株式はまつたく有していなかつたもの、石川次男は同四六年ころからいわゆる総会屋となり、「石川政経研究所、代表石川享男」の名称を掲げ、「財界かわらばん」と題する刊行物を発行し、自己が端株を有する東京都内等の約五〇〇社から賛助金等の名下に金員の提供を受けるなど総会屋として活動していたものであつて、右理研ビニル工業の株式一一株を有していたもの、横山衛、星野哲彌はいずれも被告人西方と同様、被告人小池輩下の総会屋として活動していたものであつて、右理研ビニル工業の株式はまつたく有していなかつたものであるが、被告人両名および石川、横山、星野は、新聞報道等により右理研ビニル工業監査役山田司が、いわゆる田中角栄前首相の金脈、人脈問題に関連して、宅地建物取引業法違反容疑で取調を受けていることを知つたが、右理研ビニル工業の第四五回定時株主総会の招集通知を受け、その議題中第二号議案の定款一部変更の件に同社の定時株主総会を現行年二回から年一回に変更すること、および同第三号議案の監査役二名選任の件に右山田が監査役候補の一人として推薦されていることの各記載のあることを知るや、右株主総会に乗り込んで山田監査役選任問題に反対して株主総会を紛糾混乱させることによつて自己らの総会屋としての実力を会社側に認識させるとともに、対外的にもこれを誇示し、かつ総会屋の活動舞台である株主総会の回数減少を阻止し、これが阻止できない場合にも会社に対して中間配当期の株主懇談会の開催を承諾させ、もつて自己らの総会屋としての地位や名声を高め、ひいては賛助金等の収入の増加を図ることを企て、右被告人ら五名で同社の右株主総会に乗り込んだうえ、右山田の監査役選任にあくまで反対し、同人を立候補辞退に追い込むこと、右第二号議案に反対し、少くとも中間配当期に株主懇談会を開催する旨の約束を取り付けること、そのために議長に質問を集中して議事の進行を妨害し、議事を紛糾させて混乱に陥れること等を共謀し、被告人小池は右理研ビニル工業の株主総会当日、これに先立つてキリンビール株式会社の株主総会に出席するため右理研ビニル工業の株主総会には遅れて出席することから、同被告人が会場に到着するまでは、被告人西方らにおいて、右被告人小池が予め右理研ビニル工業代表取締役石井滋に内容証明で送付しておいた株主総会を年一回とする定款改正に反対するなどを表明した文書および右被告人小池が前記週刊「訴える」一〇七号に掲載するため執筆した「新星企業は、あの新潟のドン百姓野郎の、こ汚い金儲けの片棒を担いだり、資金隠匿の隠れ蓑に利用していた、ドン百成金豚のリモコン会社であり、竹沢脩や山田司(この糞豚は理研ビニル工業の監査役でもある)は、顔面神経豚の子分である泥豚どもである。……明日三月二八日株主総会をやる、理研ビニル工業(株)という会社は、田中角栄が一七三万二千株(7.3%)の筆頭株主であるが……この成金豚の身替りとしていま問題になつている宅建業法違反の山田司「新星企業」元社長が昭和四一年から監査役に就任しており、しかも、今回の改選期にずうずうしくも再度就任しようとしていることは面白くないじやございませんかつてんだ。……こ汚い山田糞豚監査役はどう見ても上場会社の名簿に載せる“玉”じやない事だけは確かだナツ。」等と記載した原稿を読み上げる等して次々と発言を続け、議案の審議に入ることを阻止するよう打ち合わせたうえ、右被告人西方および前記石川、横山、星野は、昭和五〇年三月二八日午前一〇時ころ、東京都中央区銀座二丁目一〇番一八号所在東京都中小企業会館五階プラスチツクホールで開催された右理研ビニル工業第四五回定時株主総会場におもむき、被告人西方および横山、星野は、同社の株式を有する先輩総会屋等の名前を使つて不正に入場し、同社代表取締役石井滋が同総会議長となり、前記各議案等を議題とする同総会の開会を宣し、議事に入ろうとするや、予めの打ち合わせどおり、右石井に対し、こもごも「委任状中に議題に反対であるとの意思表示をしているものがあるはずだからまずその件につき報告しなければ議案の審議には応じられない」「小池という人から内容証明が行つていないか。その内容を報告せよ」「少数株主を馬鹿にしているのではないか」「強行採決したらどういうことになるか、よく知つてますね」などと次々に発言を繰り返し、さらに被告人西方が前記内容証明の内容を読み上げたりして追求し、右石井議長が右のような事項は議案の審議に入つてから意見を述べるよう発言を制止したのも聞き入れず、相呼応して同様の発言を続け議案の審議に入るのを阻止したうえ、さらに被告人西方が「こういう怪文書がある」などと称して、山田司を著しく誹謗した前記被告人小池執筆にかかる週刊「訴える」第一〇七号の原稿のコピーを読み上げ、さらにそのころ遅れて入場してきた被告人小池も被告人西方らに呼応して、右山田らに対し、「被疑者を監査役にできるか」「あなた前科者じやないか」「前科者が会社の業務内容を監査するなどと一丁前の能書を言うんじやないよ」「新商法にのつとつた監査役の義務というのを言つてみろ」などと怒号し、さらに右石井議長に対しても、「嘘八百を並べる奴が何で社長の座にすわれるか、人格識見ともお前は落互者だ」などと申し向け、被告人西方、前記石川、横山、星野も相呼応して次々に同趣旨の発言を続け、それぞれ執拗かつ一方的に悪口雑言を繰り返して約一時間半にわたり右総会の議事を紛糾混乱させて議事の進行を妨害し、議案の審議に入らせないまま同総会の正常な進行を不能ならしめ、右混乱に乗じて被告人小池が事態収拾のためと称して執拗に休憩を求め、被告人西方らもこれに同調して休憩を求め、前記石井議長がやむなく休憩を宣して休憩中、同会館五階の控室において被告人小池の要求によつて行なわれた被告人小池及び前記石川と会社側役員との話し合いの際、被告人小池および前記石川が、右山田および石井らに対し、「あんたは被疑者になつているんだから監査役を辞退しなさい」「こんなこといつまでしていても議事はできない、今日の総会はお流れだ」「再開しても前と同じことになる」「採決を強行しようとすれば流会にさせてやる」「今日は流会にして継続会にしよう」などと申し向け、右石井、山田らが右山田監査役選任辞退の要求に応じないときは、再び再開後の同総会において同人らを誹謗、追求し、かつ同総会を混乱のうちに流会せしめて、同人らの名誉に危害を加えかねない気勢を示して同人らを困惑、畏怖させ、よつて右の要求に応じなければ引き続き自己の名誉に対してどのような害を加えられるかも知れないと畏怖した右山田をして、同日午前一一時四五分ころ再開された前記総会において、右監査役選任候補を辞退するとの意思表示をするのやむなきに至らしめ、さらに前記第二号議案の審議にあたつても、原案に強力に反対し、かつ右議案を採決するのであれば、同社の中間配当期に株主総会に準じた株主懇談会を開催する旨定款に加えるよう右石井に執拗に要求し、同人が右要求に容易に応じないとみるや、被告人小池が「もし何ならまた先程みたいに休憩してお話しましようか」などと申し向け、右要求に応じなければ暗に再び同総会を紛糾混乱させ、流会に陥れかねない気勢を示し、よつて、右要求に応じなければ同総会が引き続き紛糾混乱し、流会となることにより経営者としての名誉にどのような害を加えられるかも知れないと畏怖した右石井をしてやむなく右株主懇談会を開催する旨約させたうえ、同総会議事録にその旨記載せしめ、もつて威力を用いて同会社の業務を妨害するとともに、右山田、石井に対し、それぞれその名誉に対し害を加うべきことをもつて脅迫し、同人らをしてそれぞれ義務なきことを行なわせ、

第二、被告人小池隆一は、前記のとおりいわゆる総会屋として活動し、週刊「訴える」を発行、頒布していたものであるが、昭和五〇年三月上旬ころ、匿名で送付してきた「ノーコメント」と題する印刷物のコピーを受けとり、右「ノーコメント」が事実を捏造し、被告人およびその属する小川薫らの総会屋グループに対し批判的な記事を掲載しているなどと憤慨していたところ、同年四月上旬ころ、右「ノーコメント」が株式会社平企画(代表取締役山口あさ子)発刊にかかるものであることを知るや、右「ノーコメントの発行に報復するため、右平企画、右同社代表取締役山口あさ子および同女の夫で同社取締役兼編集者たる山口三雄の名誉を毀損しようと企て、同年四月一六日ころから同月二三日ころまでの間、別表記載のとおり前後五回にわたり、東京都品川区東大井五丁目二三番三四号品川郵便局から、同都中央区日本橋一丁目二番五号東洋信託銀行総務部次長大沢安男ほか多数の者に対し、「平企画を追求するシリーズ」と題し、右平企画および右山口あさ子、三雄夫妻の名誉を毀損する内容を記載した週刊「訴える」第一一一号ないし第一一五号各約一二〇〇部を郵送頒布し、もつて公然事実を摘示して右平企画および山口あさ子、山口三雄の各名誉を毀損し

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(弁護人の主張に対する判断)

一弁護人は、判示第一の各罪につき、被告人らの行為は、刑法二三四条の威力業務妨害罪にいう「威力」及び同法二二三条の強要罪にいう害悪の告知のいずれにも該当せず、また業務が妨害された事実もなく、被告人らの行為は株主総会における株主権の行使として違法性がないと主張し、さらに共謀の点についても、少数株主に過ぎない被告人小池らが総会の議決を左右し得ないことは自明であり、単に反対の意見を述べることにしたに過ぎず、判示のような共謀をした事実はないと主張する。

二そこで検討するに、前掲各証拠によれば、被告人らはいずれも総会屋として東京都内の多数の会社から賛助金等の名下に金員の提供を受けるなどして活動していたものであるが、判示認定のとおり、本件理研ビニル工業の株主総会の開催にあたり、山田監査役選任問題に反対して株主総会を紛糾混乱させることによつて自己らの総会屋としての実力を会社側に認識させるとともに、対外的にもこれを誇示し、かつ総会屋の活躍舞台たる株主総会の回数減少を阻止し、これが阻止できない場合にも会社に対して中間配当期の株主懇談会の開催を承諾させ、もつて自らの総会屋としての地位や名声を高め、ひいては賛助金等の収入の増加を図ることを企て、事前の周到な謀議にもとずき、議長の議事の進行を意図的に妨害する目的をもつて、本件理研ビニル工業の株主総会に乗り込み、会社側を含め約四〇名の株主等が出席している広さ約79.9平方メートルの同総会場において、そのおよそ前半分に適宜分散して位置を占め、同総会の開会が宣せられるや、議事手続をまつたく無視して前記被告人らの勢威を公然と示すような方法で、判示のとおりこもごも一方的に発言を続け、あるいはこれに声援を送るなどして相呼応し、石井議長を含む他の者らの発言を封じ、議案の審議にすら入らせないまま、さらに右石井、山田らに対し、執拗かつ強圧的に誹謗を加え、約一時間半にわたり右総会の議事を紛糾混乱させて議事の進行を妨害したうえ、右山田に対し監査役選任候補の辞退を迫り、被告人小池の要求によつて持たれた休憩中の会社側役員との話し合いにおいても、前同様の要求を執拗に繰り返し、右山田が右要求に応じないときは再開後の総会においても前同様の手段、方法によつて同人を誹謗、追求し、同総会を紛糾混乱のうちに流会せしめて同人の名誉に危害を加えかねない気勢を示し、右山田をして、被告人らの右言動から、あえて右監査役選任候補に固執した場合には、さらに同人の名誉に危害が加えられるものと困惑・畏怖させて監査役選任を辞退させ、さらに株主懇談会の開催に関する第二号議案の審議にあたつても、石井議長に対し、株主総会の年二回開催か、それが容れられない場合には少くとも中間配当期における株主懇談会を開催するよう、判示の手段、方法によつて執拗に要求し、判示のとおり困惑・畏怖した同議長をして、やむなく右株主懇談会を開催する旨約させた事実が認められる。

三そこで被告人らの判示言動が刑法二三四条にいう「威力」に該当しないとの主張について検討するに、なるほど弁護人所論のとおり、本件においては、被告人らが暴行その他の有形力を行使した形跡は認められないが、法にいわゆる「威力」とは、「犯人の威勢、人数、および四囲の状勢よりみて被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力を指称する」(昭和二八年一月三〇日最高裁第二小法廷判決、刑集七巻一号一二八頁参照)と解すべきところ、前記認定のとおり、被告人らの本件行為は、総会屋としての地位や名声を高め、ひいては賛助金等の増収を図るために右山田監査役選任問題に藉口して、いわゆる総会荒しを企図したもので、事前の共謀のもと仲間の総会屋五人で総会場に乗り込み、議事手続を無視して相呼応して発言を繰り返し、さらに右山田や石井議長に対し、大声で怒号、罵倒して中傷、誹謗を加え、約一時間半にわたり同総会の議事を紛糾混乱させて議事の進行を妨害し、議案の審議にすら入らせない等同総会の正常な進行を不能ならしめたものであるから、右状況に照らせば、右石井議長において、あえて議事の正常な運営をはかれば、被告人らがいかなる挙動に出、同総会がいかなる混乱状態に陥れられるか計り知れないものと考えるに至つたというのも誠にやむを得ないものというべく、被告人らの判示言動は、人の自由意思を制圧するに足りるものとして、法にいわゆる「威力」に該当するものと認めざるを得ず、従つて弁護人のこの点についての主張は理由がない。

なお弁護人は、本件理研ビニル工業の株主総会は、予定の議案すべてについて採決をし、終了しているのであるから、同社の右株主総会の業務は妨害されていないと主張するが、そもそも刑法二三四条の威力業務妨害罪が成立するためには当該業務の執行を阻害するおそれのある状態を発生させれば足り、現実に妨害の結果を生じたことを要しないものであるのみならず、前記認定のとおり現に右株主総会の正常な運営が阻害されていることは明らかであるから、弁護人の右主張も理由がない。

四次に、判示被告人らの言動は強要罪における害悪の告知には当らないとの主張について検討するに、まず前記山田司に対する行為については、同人が被告人らから執拗かつ強圧的な誹謗を加えられたうえその監査役選任候補の辞退を要求され、結局休憩中の控室において右要求に応じ、再開後の同総会においてその旨の意思表示をするのやむなきに至らしめられたことは判示認定のとおりであつて、右山田の検察官に対する供述調書によれば、同人が右辞任要求に応じた理由は、被告人らの右要求に応じなければ、さらに引き続き同総会において同人の名誉を著しく傷つけられるばかりか、総会を流会に追い込まれ、会社や多数の株主に対し多大の迷惑をかけることになると考え、被告人らの右言動に困惑・畏怖したことにもとずくものである事実が認められ、被告人らの右言動は、その名誉を害することをもつて優に人を畏怖せしめるに足るものというべく、判示被告人らの言動は、前記山田司の名誉に対し害を加うべきことをもつて脅迫したものと認めるのが相当である。

次に前記石井に対する行為について検討するに、被告人らは判示のとおり議事妨害の行為をし、また同人に対する個人的誹謗を加え、さらに総会を流会にしようなどと申し向け、要求に応じなければ、さらに総会を紛糾混乱に陥れ、果ては流会という事態を余儀なくさせるかもしれないような気勢を示したものであつて、前記石井が、被告人らの右言動に判示のとおり困惑・畏怖した結果、判示株主懇談会の開催を約し、総会議事録に記載するに至つたものであることは、右石井の前掲当公判廷における証言、および各供述調書により明白であつて、被告人らの右言動はその名誉を害することをもつて優に人を畏怖させるに足るものというべく、被告人らの判示言動は前記石井の名誉に対し害を加うべきことをもつて脅迫したものにあたるものと認めるのが相当である。もつとも、再開後の総会において、株主懇談会の開催を議事録に記載すること自体は右石井の発議によるものであることは弁護人所論のとおりであるが、再開後の総会において、右石井が被告人らの要求に応じ中間配当期における株主懇談会の開催を約し、その旨総会議事録に記載させたのは、被告人らから前記第二号議案を採択するのであれば、中間配当期に株主懇談会を開催する旨定款に加えるよう要求され、加えて「もし何ならまた先程みたいに休憩してお話しましようか」などと暗に右要求に応じなければ再び同総会を混乱、流会に陥れかねないものと脅迫された結果であることは明らかであり、弁護人所論の、議事録への記載自体は右石井において提案したものであるとしても、右は被告人らの執拗な定款記載要求に対して石井がその措置に窮してやむを得ず提案した事実が認められるから、何等前記認定を左右しないものというべきである。従つて弁護人の右主張も理由がない。

五次に、本件被告人らの行為は、株主総会における株主権の行使であつて、違法性がないとの主張について判断するに、なるほど株主総会は、株式会社の最高議決機関として株主が自由に質疑討論のうえ採決をなす場であり、議論が白熱化し語調が激化し、ときに株主の発言が議場を紛糾混乱させて騒然たる状態を現出させることがあるとしても、これが直ちに違法とはいい難く、正当な株主権の行使と認められる限り刑法上も正当行為として違法性を阻却するものと解すべきであるが、本件については、前記認定のとおり、被告人小池は理研ビニル工業の株式一株を、また前記石川は同社の株式一一株をそれぞれ有してはいたが、いずれも株主としての権利を誠実に行使しようとしたものではなく、株主たる地位を利用して自己の総会屋としての利権をはかるためいわゆる総会荒しの目的をもつて、かつその手段方法も被告人西方および横山、星野の三名は株式を有しないところから株式を有する先輩総会屋等の名前を使用して株主総会場に不正に入場したうえ、質疑、討論に名をかりて判示のとおり発言を連発し、右株主総会の議事を紛糾混乱させ、意図的に議事の進行を妨害し、さらに右山田および石井に対しても前記強要の行為に及んだ事実が認められるから、右行為の動機、目的、事前の共謀の内容、総会場における行為の手段、態様、被告人らの主観的認識、人数、被告人らの職業および持株の状況、過去の同社の株主総会に対する関心の度合や出席状況等いずれの点からみても、被告人らの行為は、株主権の正当な行使を目的としたものとは認められず、明らかに右株主権行使に藉口した権利の乱用と認められ、何等違法性を阻却するものとは認められないから、弁護人の右の主張も理由がない。

六さらに弁護人は、被告人らが判示のような共謀をした事実はなく、前記山田司が監査役選任を辞任するに至つたのも、いわば被告人らの計算外の出来事であつたと主張するが、前掲各証拠によれば、被告人小池および前記石川はかねてより本件理研ビニル工業第四五回定時株主総会に深い関心を示していたものであるところ、同総会の前日である昭和五〇年三月二七日、東京都品川区南品川六丁目一五番七号ゼームス坂パークハウス一〇〇五号の被告人小池方において、被告人小池、被告人西方、前記石川および横山が集まり、判示認定のとおり共謀を遂げ、前記星野については右西方を通じて連絡を受けたうえ翌二八日の朝、右共謀に加担した事実が明らかである。よつて弁護人の右主張も理由がない。

(法令の適用)

被告人小池隆一、同西方勝也の判示第一の行為中、威力業務妨害の点は刑法六〇条、二三四条、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、山田司、石井滋に対する各強要の点はいずれも刑法六〇条、二二三条一項に、被告人小池隆一の判示第二の株式会社平企画、山口あさ子、山口三雄の各名誉を毀損した名行為はいずれも刑法二三〇条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、それぞれ該当するところ、右判示第一の各罪および判示第二の各罪は、いずれも各一個の行為でそれぞれ三個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により判示第一の各罪については最も犯情の重い石井滋に対する強要の罪、また判示第二の各罪については同じく最も犯情の重い山口あさ子に対する名誉毀損の罪でそれぞれ処断することとし、被告人小池隆一に関しては、右判示第二の罪につき懲役刑を選択したうえ右判示第一、第二の各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、以上各所定刑期の範囲内で、被告人小池隆一を懲役一年六月に、被告人西方勝也を懲役八月に各処することとし、被告人小池隆一に対しては同法二一条を適用して未決勾留日数のうち五〇日をその刑に算入し、なお後記情状を考慮して被告人両名に対し同法二五条一項を適用し、この裁判の確定した日から、被告人小池隆一に対しては三年間、被告人西方勝也に対しては二年間、それぞれその刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを全部被告人小池隆一に負担させることとする。

(量刑の理由)

被告人らの判示第一の犯行は、石川、横山、星野らと共謀のうえ、総会屋グループ五人で総会荒しの目的をもつて理研ビニル工業株式会社の第四五回定時株主総会に乗り込んだうえ、判示のとおり威力を用いて同総会の正常な運営を妨害し、山田監査役、石井議長を脅迫して、山田に監査役立候補を辞退させ、石井議長に中間配当期における株主懇談会の開催を約させたというものであつて、その犯行態様は、総会屋たるの勢威を示し、議事手続を無視して勝手に発言を繰り返し、右山田、石井らに対し罵詈雑言を浴びせ、執拗かつ強圧的に誹謗を加え、同総会を流会に陥れかねない気勢を示して議場を混乱紛糾させて議事の進行を意図的に妨害したというものであり、しかもかかる犯行に出た動機は、自己らの総会屋としての名声を高め、かつその利権をはかるという私利私欲にもとづくものであり、その刑責は決してこれを軽々に論ずることはできない。また被告人小池隆一の判示第二の名誉毀損の犯行も、株式会社平企画発刊にかかる「ノーコメント」の記事に対する報復のため、自らの刊行する週行「訴える」に、五回にわたり判示のとおり右山口あさ子、三雄夫妻および右平企画の名誉を著しく傷つける内容の文言を掲載したうえ、その各約一二〇〇部ずつを、上場各会社等に郵送送付したというもので、その記載内容、および右頒布手段からして、執拗かつ悪質なものというべきであり、その刑責もまた必ずしも軽々に論ずることはできない。総会屋の存在及びそのあり方については、多くの論議、批判の存することは周知のとおりであり、被告人らの自重、自戒及び節度ある行動を強く望むものであるが、被告人両名とも、当公判廷において、被告人小池については名誉毀損の点も含めて、本件の行為を反省し、二度とこのようなことを繰り返さない旨述べ、一応改悛の情も示しており、その他被告人両名の年令、経歴等諸般の事情を考慮して、被告人両名に対してはそれぞれ主文の刑を量定したうえ、今回に限つては特に刑の執行を猶予するのが相当であると思料する。

よつて主文のとおり判決する。

(佐々木史朗 上原吉勝 小島正夫)

別表 <省略>

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